以前読んだ"新世界より"がなかなか面白かったということと、割と最近に文庫版が出た+映画化ということで悪の教典を読んでみました。
この作品は最高クラスのエリートなのにサイコパスでシリアルキラーな学校教師が自分の都合の良いように殺人を繰り返してゆくうちにミスを犯し、殺人の整合性をとるために更なる殺人を繰り返す作品で、いわゆるピカレスク作品にカテゴライズされるものと思います。
ボリューム的には厚めの文庫x2なのでそれなりの量でしたが、展開がスピーディーで文章そのものも読み易く、あっさり消化できました。
反面、面白い作品だとは思うものの、主人公の蓮見が最後まで殺人というものが手段なのか目的なのかはっきりせず(おそらく両方だとはおもいますが)、知能犯でありながら不要な殺人が多かったり、つまらない動機でいらぬリスクを背負い込んだり、中長期的なビジョンに欠けると言わざるを得ない点が残念でした。作中で殺人も選択肢のひとつというようなくだりがありましたが、蓮見の目的がその場凌ぎのものばかりで、わざわざ殺人を選ぶ必要も無いのに安易にそれを選択するところがシリアルキラー(最後はスプリー・キラーそのものですが)たる所以なのかなと好意的に捉えることもできなくもないのですが、個人的には巧みなリスクコントロールで更なる活躍(笑)を続けて欲しかったのが本音です。
重複にはなりますが、それなりに面白いとは思います。しかし、人に薦められる作品では無く、もう一回読んでみようかなと思えるほどでもなく、せいぜいシングルヒットくらいの評価が妥当なのではないでしょうか。貴志祐介氏の作品はこれでまだ2作品目なので、もう何冊か読んでみたいと思っていますが、このレベルの作品ばかりならば買ってまで読みたいとは思えない。ちょっと辛くならざるを得ない作品でした。