本: 2007年3月アーカイブ

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筆者のデビッドさんはニュースステーションで海外リポーターをやっていた人で、私も微かながら記憶に残っています。テレ朝時代に書いた「いちげんさん」という作品で芥川賞の候補にもなり、リーマンしながら執筆活動にて副収入を得る。まさに私の理想を体現した偉人です。
 この本は、放浪癖のあるデビッドさんが就職前やテレ朝の取材で旅した記録をエッセイにまとめたものなのです。アラスカの地の果て、フィンランドの雪原、タイの密林、さまざまなところを訪れていますが、私が特に気に入っているお話はフィンランドの雪原でトナカイと暮らすノマドの話で、かつて羊飼いに憧れていた者にとってはとても興味をそそられるものでした。
 トナカイの大移動とともに季節によって住処を代えるのはともかく、モンゴルのノマドとは違いちゃんと家をもち、スノーモービルで群をコントロールし、軍艦で海を渡るあたりがイメージと大分違っていましたが、投げ縄やトナカイ犬、そして群の中から一匹つかまえて夕飯にする生活はイメージどおりの遊牧民でした。文明を受け入れながら自然と調和する生き方には、とてもつよい憧憬の念を抱きます。私もひと財産をつくったら、是非とも片田舎で漁とか畜産とか農業とかしながら生活できればなぁと思わないでもないのですが、今のペースでは早期リタイアはなかなか難しそうな現実があります。
 デビットさんも作中で語っていますが、自然と調和した生き方というのは簡単にできることではないからこそ、旅をすることによる一時の自然とのふれあいを求めてしまうのはごく自然な欲求だと思います。その上こういう本を読んだ後なので、思わず昔、日曜日の朝にTVでやっていた「遠くへゆきたい」のテーマ曲を口ずさんで旅に思いを馳せるのですが、思い立ったところで「必用」の無い事柄に関してはなかなか行動に移さない私の生来の性は、放浪の旅よりも穏やかな週末を選択してしまうわけです。

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この本は、熊本県の地域冊子で紹介させていたのを何かで見かけ、その直後に県立図書館でばったり出くわしてしまった曰く付きです。特に運命や何かの予兆を感じたというわけではありませんが、偶然の出会いは本でも人でも大切にしようということで借りてみました。

 著者は最近まで熊本県の副知事を務めていた方だそうで、熊本での生活の記念に書かれたとのことです。記念に執筆とはなかなか粋なことをする人がいるものだなぁと思いましたが、熊本県というより砥用の日本一の石段を舞台としたお話で、あまり記念色が強くなくかえって好感がもてます。
 内容は、家庭崩壊に瀕した父と子が日本一の石段を登りながら己が半生を振り返るというもので、有り体に言って石段に上ると言う奇特な行動以外はそこらじゅうにありふれている話と言えるのですが、ステレオタイプな父と引きこもり小僧はともかくとして、突き抜けた信念を持った母の思い込みの激しさと意思の強さがそこらのものとは違う点でしょう。死期を悟って(しかも勘違い)断食を行い、餓死することを選択する主婦は現実にはともかく、お話の中にもなかなか遭遇できません。

 この本はお話として面白いわけでもためになるわけでもないのですが、砥用の日本一の石段(3333段)に挑戦する前に読むと、それなりの覚悟を決めて挑まないと危ないよ!という物語の主筋とはあまり関係の無いところに読む意義を見出しました。熊本に住んでいる以上、一度くらいは日本一の石段にチャレンジしてみたいと思っていたのを久々に思い出しそのうちいってみようかなぁという気にはなったのですが、日本一の石段に興味の無い人にとってこの本は退屈極まり無いものでしょう。

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久しぶりに宮部みゆきさんの作品です。たまたま手持ちの本が尽きたときに行きがけBookoffの100円コーナーで見つけました。

わたしの中での宮部みゆきさんの作品イメージは物語の加速のつけ方が絶妙で、序盤はのんびりしているのに中盤から徐々に加速がついてゆき最後はもう超高速で突き抜けるといった感じ。中途半端なところで止められない面白さが最大の魅力だと思っています。「龍は眠る」も多分に漏れず、中盤以降は取るもの手につかず、貴重な日曜日をかっつり消費してしまいました。

この作品はサイキッカーという要素が出てくるので、ミステリーや推理小説の中でもリアリティ志向とは違う娯楽性の要素を多分に含んでいることから好みは分かれるのかなぁと思わないでもないのですが、少なくとも私はちょっとした読書にうってつけで高評価してます。今まで読んだ「魔術はささやく」と「火車」、どちらも面白かったのですが、この作品もその二つとまったく同じ評価、点数をつけるなら100点満点でも同点になります(78点くらい?)。その要因は物語の基本的な組み立て方を同じくしているからだと思うので、楽しく読むためには連続して宮部みゆきさんの作品を読まないことがコツなのかなぁというのが私の考えです。そして多分、そういうふうに感じた人は少なくないでしょう。

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