筆者のデビッドさんはニュースステーションで海外リポーターをやっていた人で、私も微かながら記憶に残っています。テレ朝時代に書いた「いちげんさん」という作品で芥川賞の候補にもなり、リーマンしながら執筆活動にて副収入を得る。まさに私の理想を体現した偉人です。
この本は、放浪癖のあるデビッドさんが就職前やテレ朝の取材で旅した記録をエッセイにまとめたものなのです。アラスカの地の果て、フィンランドの雪原、タイの密林、さまざまなところを訪れていますが、私が特に気に入っているお話はフィンランドの雪原でトナカイと暮らすノマドの話で、かつて羊飼いに憧れていた者にとってはとても興味をそそられるものでした。
トナカイの大移動とともに季節によって住処を代えるのはともかく、モンゴルのノマドとは違いちゃんと家をもち、スノーモービルで群をコントロールし、軍艦で海を渡るあたりがイメージと大分違っていましたが、投げ縄やトナカイ犬、そして群の中から一匹つかまえて夕飯にする生活はイメージどおりの遊牧民でした。文明を受け入れながら自然と調和する生き方には、とてもつよい憧憬の念を抱きます。私もひと財産をつくったら、是非とも片田舎で漁とか畜産とか農業とかしながら生活できればなぁと思わないでもないのですが、今のペースでは早期リタイアはなかなか難しそうな現実があります。
デビットさんも作中で語っていますが、自然と調和した生き方というのは簡単にできることではないからこそ、旅をすることによる一時の自然とのふれあいを求めてしまうのはごく自然な欲求だと思います。その上こういう本を読んだ後なので、思わず昔、日曜日の朝にTVでやっていた「遠くへゆきたい」のテーマ曲を口ずさんで旅に思いを馳せるのですが、思い立ったところで「必用」の無い事柄に関してはなかなか行動に移さない私の生来の性は、放浪の旅よりも穏やかな週末を選択してしまうわけです。
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