真説 ザ・ワールド・イズ・マイン

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以前より話題になっていた新井英樹さんのこの作品、私自身はすっかり存在を忘れていたのですが、いくつかのBlogでとりあげられていたことや、シンゴジラの批評で取り上げられていたこと、そしてなによりアマゾンさんからおすすめされたので、お取り寄せして読んでみました。

新井英樹さんの作品は、電子版モーニングで「宮本から君へ」を途中まで読んで、作風は好きではないけど続きは気になる作品であると認識していたのですが、その後の作品を追いかけるわけでもなく、特に注目していた訳ではありませんでした。ところが、たまたま読んでいた佐藤秀峰さんのnoteで「宮本から君へ」を取り上げられており、その中で宮本~は好きだが他の作品はあまり好きではないとの記述があり、そこでザ・ワールド・イズ・マインの存在を思い出し、あとは冒頭のように商売上手のAmazonさんの術中にはまった訳です。

前置きが長くなりましたがこの作品、確かに話題になるだけのことはあるな。というのが第一印象です。これを2001年のアメリカ同時多発テロ、2011年の大震災前に書き上げたというのは、今読んでみると不思議ではないしても恐ろしく先見性があり、オリジナルの単行本が即刻絶版になるだけの問題性を持った作品であるという評価は大袈裟ではないということが解りました。

(ここからネタバレあり)
本当にざっくりとしたあらすじとしては、2人組の男(片方はのちのカリスマテロリストで、もう片方はカリスマテロリストに感化されすぎた自意識過剰な一般人)が犯罪旅行で大阪から首都圏を経て東北に向かい、そこで無差別テロを始める。一方、ヒグマドンという巨大なヒグマのUMAが北海道から東北に上陸し暴れまわり、東北がえらいことになる。そして事件が一端の鎮静化を見せたのち、カリスマテロリストに感化された人間が日本中、世界中でテロを始めてもっとえらいことになる。という作品です。
見どころとしては、テロリストに対するメディアの放送によって図らずもテロが拡散してゆく様や、命の不平等性や生死感について、一般メディアでは忌避される表現をありのままに描いた点。ただ残虐なだけではなく、今日に於いては絶対とも言うべき命の価値について認めない人間の行動がもたらすものが如何なるものか。そしてそのような人間ですら、価値を認める命に対しては献身的な行動を行うという命の価値の対比などでしょうか。作品のボリュームもかなりなもので、一般的なコミックサイズだとたぶん16~20冊くらいになるはずです。(真説版は極太のコミックx5冊)
テーマは重く、一般的なピカレスク作品の様な痛快さや娯楽性には乏しく、私はこの作品のメインテーマは生命倫理とメディアの放送姿勢に対する風刺であると思っているのですが、いずれにせよ話題作とはいえ娯楽作品を求めてこの作品を手に取ると、ドン引きすること請け合いでしょう。一方で、作品内の社会思想軸は中道的であり、錯綜した極論やネイチャー志向、左右の偏りや宗教原理主義といった変なベクトルがかかっておらず、作中でがっかりするようなことが無い点は好評価できます。
個人的には無差別テロとヒグマドンが落ち着いた最終盤がお気に入りですが、日本国内で起きた無差別テロが「抗うな、受け入れろ、すべては繋がっている」のメッセージとモンのカリスマ性だけで拡散するという部分に、そういう物語であったとしても、やや強引さというか脈略の無さ、動機の薄さを感じました。あとは、AK-47でヘリ落とすのはさすがに無理でしょ・・・とか。それらも大して気にならないだけの質のある作品であり、小説ではありますが貴志 祐介さんの「新世界より」あたりが楽しく読めた人であれば、どうやらあまりコミック喫茶等には置かれていない作品ではありますが一読の価値はあるかと思います。

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このページは、necokickが2017年1月22日 16:03に書いたブログ記事です。

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