山田詠美 「ぼくは勉強ができない」

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mixiのbookコミュで強く推薦させていたので読んでみたのですが、読んでよかったと思える作品でした。

序章の内容でいきなり「ぼくは勉強ができない。でも女の子にはもてる」だったので、なんだか事前に想像していたものとは随分違ってるなと感じたのですが、読み進めるうちにこの本が倫理観や価値観を扱ったものだということが解りました。いわゆる的な「普通」とは異なった価値観を身につけた男の子が日常生活の中で起こった事柄に対して、どういうふうに感じ、どういうことを学んだか、ということを綴ったお話なのですが、少なくとも私が彼と同じ高校生の時にはまるでそういった考え方ができなかった、発想そのものが無かったので、お話とはいえ軽いショックを受けたものです。
しかしながら著者のあとがきには、この本は大人にこそ読んで欲しいと書かれていたことに安堵してしまう自分の単純さに呆れながらも、著者の「同時代性を信じない」という言葉について深く共感しました。そのあとがきの一節を引用すると

何故なら、私は、同時代性という言葉を信じていないからだ。時代のまっただなかにいる者に、その時代を読み取ることは難しい。叙情は常に遅れてきた客観視の中に存在するし、自分の内なる倫理は過去の積木の隙間潜むものでは無いだろうか。

過去にあったトラブルや心境の変化など、そのときはまるで解らなかったどうすべきかという答えを、今、改めて考えてみると、正解というものが無いにしても当時の自分に道標を示す程度の解を得ているケースが殆どです。当時の自分にはまるで理解できなかったことも、客観性とその事柄から波及した数々の感情を時が経ってから整理すると、その時代に見えなかったものがいとも簡単に見えてくる。筆者の同時代性を信じないという言葉への共感とともに、優れた客観性を養うことは時代の只中に道標を見つけるための大きな助け、道具となることを示しているようにも思えました。

また、対人関係の話についても思うところがいろいろありました。以前より、仕事で小言や些細なことでも注意してくる人間は極めて有益な存在なので絶対に遠ざけてはいけない、というルールを守ってきてきました。それがたとえ相手の感情的な問題であっても、それを聞くことは自分にとって益にこそなれマイナスになったことは一度としてありませんので、このルールはなかなか良い心がけだったと自賛していたのですが、こと仕事以外となると兎角に自分の世界を侵食されることを嫌い、なんとなくネガティブな印象があるというだけで積極的に避けていた節を自覚しています。それこそ人見知りレベルで避けているケースすらあるので、よほどの消極性と言えるでしょう。しかしながら、本当に大切なのは仕事上に限定しない、枷の無い、限定されない場面での感情であるようです。それこそ、この本でいうところの勉強が私にとっての仕事ということになるのでしょうか。いつも穏やかな日常こそ望んでいる私にとって私生活の対人的な刺激は多くを必要としない要素だと思っていましたが、それは避けていただけであってむしろ積極的に取り込む必要があるもので、あえて深く考えないようにしていたこととともに是正すべき思考、即座に改めなければならない類のものです。対人的な刺激というものは、ようするにストレスと言い換えてしまってほぼ語弊は無いと思いますが、それを仕事では甘受しているのだから自分の時間くらい好きにさせてくれ!という思考は一見同意したくなります。しかし、それを客観的に見てみれば、即座に「自分に甘い」と斬り捨てられて当然のもので、なにも後から叙情に思いを馳せなくとも現時点においてすら自明と言えるでしょう。有体に言ってしまえば、自分の殻にとじこもっている状態なわけですから・・・

年末のこのような時期に、このような本にめぐり合えるということは、何かしらの縁を感じずにはいられません。特に奇特な主張でもなく、またその程度の理屈も本を読まなければ気が付かないというわけでもありませんが、きっかけというものはとても重要であり、そのきっかけというものはすべからく外部からの刺激によってもたらされます。今回得た教訓をなるべくシンプルに捉えるのならば、「穏やかな日々を望むにはまだ未熟に過ぎる」ということ。私生活でネガティブな感情を積極的に取り込むなど言うと酔狂のように思えますが、まぶしいものから目を逸らさないこと、私生活でもイヤなことを言う人の言葉にも耳を傾けること、と考えれば、割と当たり前のことのように思えます。ただし、それを実践するにはそれなりの心構えと少しの勇気がいることでしょう。

オススメの本と言うには何か違うような感情があり、あくまで主観でしか語れませんが、少なくとも読む価値があり、冒頭でも述べたとおり読んでよかったと思える本でした。

コメント(2)

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高校生の頃に読みました。
「大人の女ってのはよくわかんないなあ」という感想を持ったように思いますが、今になって思い返してみると、どちらかといえば「あー、分かるかも」と思いますね。
これを読んでから、山田詠美を集中的に読んでたような覚えがあります。「4U」とか。ほとんど内容忘れてますが。

この本は本編よりも、英美君が小学生の時の話が感慨深かったですね。
他の作品も機会があったら読んでみようと思います。次はラビット病あたりかな・・・

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このページは、が2007年12月25日 00:32に書いたブログ記事です。

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