貴志祐介 "新世界より"

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最近メディアミックスで取り上げられることの多いこの作品。そういえば死ぬ前に一度は呼んでおきたい本スレで割と頻繁に見かけたなぁと思っていたところ、丁度昼休みに立ち寄った古本屋で若干値は張ったもののちょうど手持ち無沙汰であったことから購入して読んでみました。

個人的な評価はかなり面白い!スタンディング2ベースヒットくらいには評価できる作品です。ただ、メディアミックスの方向性から積極的にはオススメしづらいのが難点と言えるでしょう。(コレのコミック版は嫌悪感を覚えるデザインでした。本来ならああいう萌えコミックとは一線を画した硬派な作品であり、スプラッタな展開も多数ある大人も読めるジュブナイルのような立ち位置に私なら分類するでしょう。いちおう、ジャンルはSFということになっているみたいです)
全部で一般的な文庫本の1.5倍x3冊のボリュームなので、文章量が気にならない人にとっては問題にもなりませんが、長編が苦手な人にもやや向かないかもしれません。

さて、ネタバレしても大過無さそうですが、これから読む人もすくなからずいてもおかしくないメディア露出度なので、続きは追記にて。

文明レベルが19世紀くらいに退化し、そのかわりに人間はだれもがPK(汎用的念動力?)を使える世界で、その世界の生い立ちと、あるコミュニティに訪れた崩壊の危機について、主人公の渡辺早季の回想から語られるスタイルの作品なわけですが・・・
世界観がいろいろ突っ込みどころが無いわけではないものの、現社会の組成に関しては感心するほどよく練られていて、むしろこの作品はあくまでプロローグという立ち位置でこれからこの世界観でガッツリと物語を広げていってくれたら大変面白い作品群になりそうな、そんな作品です。

この物語を読み終えて、エヴァンゲリオンの人類補完計画(エヴァの中でそれがどういう物なのかは私自身良く知りませんが)の実態がこの物語の社会であるのならば物凄く納得できる、そういう感想を持ちました。過ぎたる力を人間同士の争いに使わせないための愧死機構と、社会の脱落者を容赦無くコミュニティから切り捨てる悪鬼業魔の抑制システム、そして幼少から繰り返し刷り込むことにより世界を縛る教育制度。人間(人間のコミュニティ)がより完全を目指すためのアプローチとして、とても面白い設定だなととても感心しました。

一方で、最初にバケネズミが出てきたところから、カタストロフの中心はこいつらだな!という予想が付いてしまうくらい先読みしやすい展開であり、驚きをもって読み進めるというよりは、早季の回想を追うことで、世界のの成り立ちが見えてくることのほうが面白く感じました。(多分筆者の狙いどおりなのでしょう)

なお崩壊の危機に際して、個人的には人間よりもバケネズミサイドを応援したくなりました。悪鬼もどきというジョーカーを駆使して、インチキ能力を全員がもっている人間に大してどう立ちまわるのか。ネズミサイドはなぜ最終的な勝利を得ることができなかったのか、戦術面での立ちまわりについて思索をひろげたくなるのは、物語にハマったなによりの証左と言えるでしょう。
ちなみに個人的には悪鬼もどきを東京探索妨害に連れだしたのが判断ミスだと思います。条件さえ揃えば皆殺しにされるネズミ側ならば、洞窟に入った時点でなりふり構わず相打ち覚悟の落盤なり粉塵爆発なりを誘発すべきであったと考えます。そもそも、人間側が悪鬼もどきと相打ちを狙えば、余程のミスが無い限りネズミよりも確実に共倒れに持ち込めるわけで、やはり野狐丸のミステイクは悪鬼もどきの配置ミスだと断言できます。(などと展開したくなる程度に、この物語と世界観にハマったわけです。既読の方と戦術面の考察などをテーマに語り合いたい!)

支離滅裂な感想となってしまいましたが、最初に述べたとおりこの作品の世界観はさらに拡張することにより魅力が増してくるはずです。どうか筆者の貴志祐介先生には、続きをどんどんリリースして欲しいと思っている次第です。(ちなみに前日談はすでに連載中らしく、単行本になるのを物凄く楽しみにしてます。予想通りの代物であれば、多分本編よりも面白いはず!!)

まだまだ個人的には書き足らないのですが、本Blogの読者の方々に一人も既読の方がいらっしゃらない可能性について考えると、コレ以上の暴走は本当に自己満足だけの益のない思索に耽るのに等しい行為であり、(作品に対しては最大級の賛辞に変わる行為であると思いますが、さすがにそこまで手放しに評価しているわけではない)自重するだけの冷静さが私には残っています。(そして余談ではあるものの、FateZeroのゼル&綺礼が織り成す愉悦問答は至高の一節であったと言わざるを得ません。)

期待せずに読むには些かボリュームがありすぎる作品であり簡単には勧められませんが、文章量が気にならない方であれば一見の価値は十分にあることでしょう。むしろ、私としてはこの作品について感想を語り合える仲間が欲しいというのが本音です。

コメント(2)

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これ、先が気になって気になって仕方なかった覚えがありますね。再読したくなりました。
テロメア維持する能力とかチート過ぎだろ! と突っ込んだ記憶がよみがえりましたよ。

私はテロメア再生の下りを読んだとき、脳細胞は分裂しないからいくらテロメアを再生できても脳の寿命で生きながらえることができないんじゃないの?と思いました。
改めて考えてみると、突っ込みどころはそこじゃねぇ!なんですけどねw

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このページは、が2012年5月28日 23:38に書いたブログ記事です。

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